生成AIで資料作成が変わる人と変わらない人の差
「ChatGPTを使い始めたのに、資料作成の時間が全然変わらない」——こういう声を聞くたびに、問いたくなることがある。何を変えたのか、と。
ツールを変えただけで仕事が速くなるなら、電卓を買えばすぐ経理担当者の生産性が上がるはずだ。実際はそうならない。電卓の使い方を学ぶことより、「何の数字をどう処理するか」という仕事の構造を変える方が、生産性には効く。生成AIも同じだ。
生成AIで資料作成が速くなる人は、プロンプトを工夫しているのではない。インプットの設計を変えている。
変わらない人は、いつも「白紙のドキュメントにAIが何かを書いてくれる」と期待している。変わる人は、「整理された材料を渡せば、AIが形にしてくれる」と理解している。この認識の差が、3ヶ月後の差を生む。
変わらない人が陥るパターン
変わらない人のよくあるプロセスはこうだ。資料作成の仕事が来る。「AIに任せよう」とChatGPTを開く。「〜についての提案書を作ってください」と入力する。出てきた文章を見る。「なんか薄い」と感じる。手で肉付けしていく。結局、最初から書くのとあまり変わらない時間がかかる。
何が問題か。AIに渡した「インプット」が薄すぎるのだ。
提案書には、クライアントの課題、提案内容の根拠、競合との差別化ポイント、費用感、スケジュール感——少なくともこれだけの情報が必要だ。それらがないまま「提案書を作って」と頼んでも、AIは架空の内容を埋めるしかない。つまり「AIが薄い」のではなく、「インプットが薄い」のだ。
変わる人は逆だ。AIに頼む前に、伝えるべき情報を箇条書きで整理する。構成の骨格をメモする。参考にすべきデータを手元に用意する。そして初めて「これを元に提案書の〇〇章を書いてほしい」と依頼する。
生産性が上がる3つのパターン
資料作成における生成AIの効果は、3つのパターンで整理できる。
図1:用途別の削減工数と必要なインプット
注目すべきは、どのパターンでも「人間が情報を整理してから」という前提が共通していることだ。AIは「材料を形にする」作業は得意だが、「何を伝えるべきか」という判断は依然として人間の仕事だ。
議事録は最も効果が出やすい
3パターンの中で最も工数削減効果が高いのは議事録だ。理由は明快で、「インプット(録音・文字起こし)が客観的に存在する」からだ。提案書はインプットを人間が設計する必要があるが、議事録は会議の録音さえあれば、AIが事実を整理してくれる。
Notion AI、Otter.ai、または単純にChatGPTに文字起こしテキストを貼り付けて「以下の会議内容から:①決定事項②アクションアイテム③未解決の課題を抜き出してください」と指示するだけで、かなり実用的な議事録が生成される。筆者が試した限り、30分の会議の議事録作成が15分から3分に短縮できた。
ただし、固有名詞と専門用語の誤字は必ずチェックすること。「田中さん」が「田仲さん」に、「API連携」が「API練習」になっていたケースを複数回経験している。
Lat91での実体験:エージェントが変えた「資料作成の手前」
Lat91では、提案書作成に生成AIを使っている。ただし、「AIに提案書を書かせる」のではなく、「提案書のインプットを事前に構造化するエージェント」を作った。
商談メモと過去の類似案件情報を入力すると、「提案すべき課題・解決策・期待ROI・類似事例」という形式のデータが整理される。これを元に人間が最終的な提案書を書く。AIが提案書全体を生成するより、この方が品質が安定した。
気づいたのは、「AIに書かせる」より「AIにインプットを整理させて人間が書く」方が、クオリティが高いという点だ。提案書には「この会社にしか言えないこと」が必要で、それは今もAIには書けない。
海外では、Salesforce社がAI支援の営業資料作成ツール「Einstein Copilot」を全営業担当者に展開し、資料作成時間が平均35%削減されたと報告している(出典: Salesforce, 2025)。ただし、「顧客の課題を深く理解する」という部分は、引き続き人間の担当者が担っている。
今週から試せる5ステップ
図2:今週から試せる5ステップ(1から順番に進める)
最初のステップは「議事録」だ。最も効果が出やすく、インプットの準備コストが低い。30分会議の文字起こしをChatGPTに貼り付けて、決定事項とアクションアイテムを抽出させてみる。これで「生成AIの使い方」ではなく「AIを使った仕事の進め方」を体で覚える。
Notionには「Notion AI」という機能が標準搭載されており、ページ上で直接「このメモを議事録にまとめて」と指示できる。月額2000円程度の追加費用で、チーム全体で使えるため費用対効果が高い。まず無料トライアルから始めてみることを勧める。
よくある落とし穴:「全部AIに任せる」の罠
生成AIで資料作成に慣れてくると、次の罠に落ちやすい。「全部AIに任せれば速い」という考えだ。
これは短期的に機能するが、長期的には問題を生む。AIが生成した資料を見直さずに送ると、相手は「この提案書、なんか薄い」と感じる。表面的にはそれなりに見えるが、「この会社だからこそ言える具体性」が欠けているからだ。
2026年3月の帝国データバンク調査によると、中小企業の生成AI導入率は20.4%に達した一方、「効果が出ている」と回答した企業は導入企業の約半数にとどまる。効果が出ていない企業の多くは「ツールを使っているが、仕事の進め方を変えていない」という状態だ。
生成AIは「速く書く」ツールではなく、「速く整理する」ツールだ。 この認識の転換が、変わる人と変わらない人を分ける。
2028年に向けて変わること
資料作成の文脈では、次の3〜4年で大きな変化が起きると予測している。第一に、音声から直接資料が生成されるフローが標準化される。会議中の発言がリアルタイムで構造化され、会議終了と同時に議事録と次回アジェンダが自動生成される状態になる。
第二に、個人の「書き方の癖」をAIが学習し、本人らしい文体で生成するようになる。現在の「AIっぽい文章」という問題は、個人最適化によって解消される見込みだ。
ただし、「何を主張するか」「相手に何を伝えるか」という判断は、引き続き人間の領域だ。生成AIの社内定着に取り組む企業は、この「AIが担う部分」と「人間が担う部分」の境界を明確にするところから始めると良い。
まとめ
- 生成AIで資料作成が速くなる人は、プロンプトではなくインプット設計を変えている
- 議事録は最も効果が出やすい。文字起こしを渡すだけで70〜80%の工数削減が可能
- 提案書はAIに書かせるより「材料を整理させて人間が仕上げる」方が品質が安定する
- チームでプロンプトを標準化・共有することで、属人化を防ぐ
- 「全部任せる」は長期的に品質低下を招く。AIは「整理役」として使う
Lat91では、業務プロセスへのAI組み込みを、設計から支援しています。
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